いのいち勉強日記

Turingで自動運転の開発をしています。京大でPhDをとりました。Kaggle Grandmasterです。

【書評】「人工知能と経済の未来」ベーシックンカムの必然性とは

井上智洋さんの「人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊」の感想をまとめました。
「計算機科学xマクロ経済学」のバックグラウンドを持つ著者による解説!
 
内容は本格的ですが、説明がロジカルで簡潔なので理解しやすいです!
人工知能やベーシックインカムが初めての人でも理解できます!
 
・人工知能が発展したら経済はどうなるのか?
・ベーシックンカムはどうして必要なのか?

 
今話題のトピック!気になる方は必見です!
 

 

シンギュラリティとは?

 
「シンギュラリティ」とは「技術的特異点」のことであり、
コンピュータが全人類の知性を超えるある点のことです。
カーツワイルが『シンギュラリティは近い』で紹介したことで
一気に有名になった言葉です。
 
カーツワイルの描く未来は一見すると夢物語のようです。
しかし人工知能、つまりAIの研究の発展に伴い
すでに実現している技術もあり侮ることはできません。

 
シンギュラリティが起こるとどうなるか、
楽観的なもの悲観的なものありますが、

  1. AIが人間の知性を超える
  2. AIが自らAIを生み出すことによって知能爆発が起きる
  3. AIが人間に変わって世界の覇権を握る
  4. 人間がコンピュータと融合することによってポストヒューマンになる

筆者はこの4パターンあるといいます。
 
いずれにせよ人工知能の発展、シンギュラリティにより
経済は大変動を起こすと筆者は述べています。
 
 

人工知能の進化

 
シンギュラリティの話は2000年初期からありました。
ですが、2012年「ディープラーニング」が注目を集めて以降、
シンギュラリティの話題はますます加速しました。
 
では「ディープラーニング」とは一体何か?
 
これまでの人工知能では人が「特量」を教えて
機械がそれを覚えて実行していました。
 
ディープラーニングではこれまで人が教えていた
この「特徴」を機械自身が抽出できるようになったのです。
そこにブレークスルーがありました。
 
しかし、人なら誰でもわかるような「抽象概念」を扱うことができません。
なのであらゆるタスクをこなすことができる
「汎用人工知能」になるにはまだ壁があるといいます。
 
 

人工知能で脳は作れるか

 
筆者は「人工知能」の進歩を考える上で
「全脳エミュレーション」と「全脳アーキテクチャ」という
2つの技術に注目しています。

 
「全脳エミュレーション」とはナノロボットなどを用いて
人間の脳をスキャンして、コンピュータ上に再現するというものです。
この技術があれば人と機械の知能は限りなく近づくと考えらています。
さらに人の感性や欲望まで知ることができるといいます。
なので「汎用人工知能」のための技術として注目されています。
 
一方、
「全脳アーキテクチャ」は脳の原理を理解して
その機能を人為的にプログラムします。
なので脳の作動原理がわかったからといって
知性が再現できるわけではないので
クリエイティブなタスクはできないといいます。
 
この2つの技術は他書であまり見ない考察だと思います。
ですが、興味深いジャンルであり10年後とかに
とてもホットな話題になっている可能性があると感じました。
 
 

技術的失業とは

 
イノベーションにより起こる失業のことを「技術的失業」といいます。
 
新たな技術は人の仕事を奪っていくということです。
しかし、技術の発展により新たな産業が生まれ、
失業した人も新しくそちらの労働に「移動」していきます。
 
筆者はこれに加えて「技術的失業」は
「需要不足による失業」も関係してくるといいます。
これは「技術的失業」時に労働の移動先がないことにより生じます。
 
これを解決するためには「金融政策」が重要であるといいます。
政策としてお金を増やして需要を増やすことが重要だということです。
 
「技術的失業」は人工知能の進歩により不可避だと思います。
今後この問題はますます顕在化してくるのではないでしょうか。
そのときにどういう政策をとることが重要なのか。
勉強すべき内容の1つだと思いました。
 

 

極度に機械化された経済

 
今後起こるとされている第四次産業革命
その中核を担うのはやはり「人工知能」だと筆者は予測します。
その上でこの産業革命に乗り遅れると
流れに乗った国から「搾取」され続けるといいます。
 
なぜなら人工知能による産業革命が起こると
「労働」が必要なくなり爆発的な経済成長が見込めるからです。

 
日本は何としても「人工知能」のレースから降ろされずに
産業革命の上昇気流に乗りたいところです。
 
ですが、産業革命のその先には極度に機械化された経済構造があり
それにより多くの失業が生まれることを懸念しています。
 
そこではオートメーションされた産業の資本を持つ
投資家だけがぼろ儲けできる構造になります。
労働賃金で生活していた層はかなり苦しくなるといいます。
多数派である労働者が貧しくなるディストピアが訪れてしまうといいます。

 
 

だからベーシックインカムが必要!

 
なぜベーシックインカムが必要かというと、
それが他の制度よりも合理的に貧困を救えるからです。
 
「人工知能」によって機械化が極度に進んだ経済が実現すると
多くの人が失業することが予想されます。
 
本書でなんども述べられていますが、
その時に必ず金融政策が必要になってきます。
 
失業者や貧困者を救う制度として
「生活保護」が制度として存在しています。
 
しかし、生活保護には欠点があります。
それは「受給者を選別しないといけない」ということです。
 
「選別」が欠点となる理由は以下です。
・多大な行政コストがかかる
・選別失敗のリスクがある

 
ベーシックインカムは「選別」を必要とせず「普遍的」にお金を分配します。
そのため「生活保護」より「ベーシックインカム」の方が優位なのです。

 
本書ではベーシックインカムの具体的な資産もしています。
十分実現が可能だと感じさせてくれます。
 
 

まとめ

 
人工知能の発展によって将来どうなるかというのが
論理的に語られていてとても勉強になりました。
 
そして、なぜベーシックインカムが必要か、
本当にベーシックインカムは実現できるのか、 
しっかり学びたい人は絶対読むべきだと思います。
 
そして何よりもとてもわかりやすいので
経済学や人工知能のことを何も知らない人でも
十分理解できると思います!